先人が残した暮らしの道具や建物を見ながら、
昔の人がどんな日々を送っていたのか、
想像するのが好きだ。

刺繍が施された布一枚をとってみても、
これは何のために、誰のために作られたのか。
どんな思いを込めて、
ひと針ずつ時間を重ねていたのか。

そんなふうに、
遠い時代の誰かに思いを寄せる。


今回、ベトナムで古布を手に取った時もそうだった。

山岳民族の衣装として使われていた布


店の片隅に、
小さくくるくると丸められた長い布が、
無造作に積み重ねられていた。
きっと長い間、この姿のまま
ここにいたのだろう。

その布を広げると、
ぎっしりと施された細かな手刺繍が現れ、
気づけば、その刺繍に魅了されていた。

もし、この布を今の暮らしの中で使うとしたら、
どんな形が自然に馴染むだろう。

布を眺めながら思いを巡らせているうちに、
頭の中に少しずつイメージが広がり、
実際に形にしようと、その刺繍布と、
他に織物を少し、日本に持ち帰った。

そのままでも十分に美しく、
今の暮らしに自然と溶け込む織物は、
できるだけ手を加えず残し、

少し手を加えることで
暮らしにより馴染みやすくなりそうな布だけを
いくつか縫製に出すことにした。

タイ族による、貴重なシルクとコットンの織物


今回、ご縁があってつながった縫い手さんに
古布の縫製をお願いしたとき、
「まずは、その布の背景を教えてほしい」
と言ってくれた。

布そのものへの敬意をもちながら、
こちらの思いも丁寧に
汲み取ろうとしてくれることが嬉しく、
「きっといいものができる」という予感がしていた。


さて、方向性はある程度見えていたものの、
古布のどこに光をあて、生かすべきか悩んだ。

民族的な背景なのか。
長く使われてきた痕跡なのか。
あるいは、美しく施された刺繍なのか。

縫製の専門家の意見も聞きながら、
最終的には、
その布と出合った瞬間に惹かれた
「刺繍」を主役にすることにした。

古布を洗いにかけ、
刺繍が美しく映える形を考えていく。

そのイメージをもとに、
縫い手さんが布の歪みを丁寧に整え、
細かな調整を重ねながら仕立ててくれた。

そうして出来上がったものは、
古布への敬意を残しながら、
今の暮らしにも自然と溶け込む仕上がりになった。

足を守っていたレッグウォーマーから、足腰を休めるためのクッションへ
刺繍の美しさに光をあてようと考えたサコッシュ



もし「売ること」だけを考えていたら、
この形は生まれなかったと思う。

ただ、この布に宿る時間や手仕事の美しさを
今の暮らしの中で
もう一度息づく形にしたかった。

どこか遠い場所で生まれ、
長い時間を重ねてきた布が、
また誰かの日常の中で使われ
循環していく。

その始まりの一歩になれたら嬉しい。

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古布をアレンジしたものは、
5月の展示会で並べます。
すべて1点ものになりますので、
実際に手に取ってご覧ください。

お買いもの